【取材】澤山弓弦製作所

創業は100年近く。和弓弦のシェアの半数を占める澤山弓弦製作所。
伝統的な麻弦を筆頭に、響や弓神といった聞き馴染みのある合成弦も製作している。

澤山弓弦製作所の特徴としては、様々な弓具店の注文を聞き、その弓具店にしかないオリジナルの弦も製作していることだ。弓具店と、そこの常連さんに何度もモニターをお願いしてお互いが納得のいくオリジナルを作り出す。

「私たち職人は工場生産とは違います。自分達の利益だけでは無く、商品を扱って頂ける弓具店さんにも満足して頂きたいと思っています。そのお店にしか置いてないオリジナルがある事によって「どのお店でも良い」というワケではなく、「そのお店のファン」になってほしいと思っています。弓引き・弓具店・職人。この三者の調和をとても意識しています。」

作って売って使って、というこのトライアングルはどの業界でも根本にあるシステムだ。どれか一つでも欠けては成り立たないものである。

どの業界でも自然由来の材料を入手するのが難しくなってきています。時代が変わり、自然環境も変わってきているのが理由です。ただ、それに甘えたくは無いと言うのが職人です。私だけじゃなくて多くの職人が同じ意見だと思います。手に入りにくかったら別の何かで補う。品質が下がったら従来の品質に近づけられるように研究をする。弓引きにも弓具店にもガッカリしてほしくないですし、何より作り手の僕達が納得する必要があります。それが礼儀だと常々思います。」

弦作りに使用する麻。ひと昔前は裏の新聞が透けて見えるほど繊細だった

取材時に澤山氏のお心遣いで作品や工房をご紹介頂く中で、「せっかくだから」ということでお連れ頂いた場所がある。
そこは工房から少し離れた場所にある倉庫で、その中から取り出したのが所謂「不良品の弦」だった。厚さや毛羽立ち、色味など様々な理由から製作の途中でドロップアウトしたものである。
パッと見たところ製作途中や商品化した弦と遜色ない状態に見える。職人にしか見えないゼロコンマの世界だ。

「不良品の弦」を幾つか残しておくのには理由がある。時代によって移り変わる素材の状態を常に把握しておく必要があり、数年後には「不良品」がよい研究材料になる可能性があるためだと言う。

弦師 澤山倫弘氏

以前、私自身が本職で取材をさせて頂いたことある職人さんは「先代が残してくれた作品は全てが特上品。もちろんそれらから学べる点は多いが失敗作も残してほしかった」とお聞きした事がある。
何が原因でこれは世に出回らなかったのか。そういった問いやヒントを後世に残すのも伝統であると感じた。

「この弓道という武道はあくまでも【伝統に守られている】武道です。弓道となる前は弓術。その前は名称すらなかったものです。弓術から弓道に移り変わった際にも様々な職人技術・使用する材料の扱い方等々が受け継がれてきました。様々な新素材や技術を用いた弓具も昨今出てきています。新しいものの登場はどんな時代も繰り返してきてはいますが、そういう時に今一度、伝統とは?というところを意識してほしいと思っています。」

武道だけではなく様々なスポーツ、現代の生活で使用しているものにはとても長い歴史や伝統がある。
その中で「伝統的な日本の弓」を引く理由を私自身も、己に問い詰めていきたいとおもう。

(有)澤山弓弦製作所
〒421-1215  静岡県 静岡市 葵区羽鳥4-18-14
TEL:054-278-8046

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